【連載】天文学と音楽 第三回


第三回 西洋から来たものを日本人がやる意味とは?日本人のクリエイティビティとは?

高梨:
ただ、こうした歴史の流れを踏まえると、西洋宗教的な世界観で生きていない我々はこうした天文や音楽の知の体系をどうやって作ったらいいのか、そういう課題に直面してしまう。実はそれが僕のテーマでもあるんです。この問題をちゃんと語れないと、日本で天文をやる意味がよく分からなくなってしまう。

奥村:
確かに、天文学はそのルーツをたどると西洋的な世界観の探求になります。それを日本人である高梨さんが行う意味って何なんだろうと。
クラシック演奏家もまた西洋宗教的な世界観で生まれた音楽を現代に再現する、というのが役割の一つだと思うんですよね。西洋で作られた音楽を東洋にいる佐古さんがやる意味ってなんだろうとか、そういったことを考えたりすることはありますか?

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佐古:
深く考えていくと難しい問題ですよね。日本人って良くも悪くも控えめだとか繊細な感性を持っているって言われるじゃないですか。そんな気張らない表現をする人種が西洋音楽を演奏することで、西洋では再現できない新しい表現が生まれるというのはよく言われている印象を持っています。これは僕個人の体験の話なんですけれども、実際外国の方からよく言われるのは、日本人が西洋音楽を演奏することにネガティブなイメージはないということなんですよね。日本人が西洋を解釈することで作曲家の新たな魅力を引き出せるからいいんだと。
逆に西洋と東洋で共通していることもあると思っていて、例えば古代から力を持った権力者が社会を取り仕切っていたという構造があったと思います。日本で言うと例えば卑弥呼みたいな「まつりごと」をしていた人たちですよね。雅楽や仏教音楽である声明(しょうみょう)のように東洋の音楽も、もともと神官や知識層が行っていたもので、そこには宗教的な営みがありました。日本でも宗教的な世界観と音楽の結びつきは当然あって、それは西洋独自の現象ではなかったと思います。

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高梨:
西洋では超越神の存在のもと、天文学と音楽が結びついていたけれども、東洋でも天文学と音楽は儒教的な世界観のもとで深く繋がっていたんではないかと思います。
よく「御天道様が見ているから悪いことしちゃいけない」って言い方をしますよね。「御天道様」って太陽のことなんだけれども、そもそも「天道」というのは天文学でいう「黄道」、つまり太陽の通り道のことなんです。儒教では天と地と人が一対一で対応しているという「天地人」という考え方がありました。太陽は絶対に天道を外れることはないから、それに対応して人は人道を外れてはいけない、といったように天文と生活が儒教を通じて結びついていました。
それで、恐らく当時の日本人は天と地の関係を音楽や儀式で表現しようとしていたはずです。
この辺りは僕も興味を持って勉強しているところで、東洋と西洋の文化の狭間で生きている私たちは天文学や音楽にどのように関わればいいのか、両者の間に立っているからこそ出せるクリエイティビティがあるんじゃないかとか、その時に何を学べばいいのか、という考え方はしますね。


第一回 「世界の真理」への好奇心から生まれた天文学と音楽
第二回 きっかけは17世紀。独自の進化を遂げる天文学と音楽。
第三回 西洋から来たものを日本人がやる意味とは?日本人のクリエイティビティとは?
第四回 科学に必要な感性。アートに必要な理性。
第五回 これからの宇宙の音の探求
第六回 科学者と音楽家の考える生活の豊かさについて